「シャルル殿、聞いたぞ、うまくやられたようじゃな。何故(なにゆえ)に、その場に儂も呼んでくれなんだと、カザルスに怒っておったのよ。あの悪女のイヨロンドに、いや、すまん、そなたの母じゃったの、一泡吹かすところを儂も見てみたかったわ。あのおつむの悪い、お、失礼、これもそなたの兄じゃったの、ギヨームが腰を抜かしおったのも……ああ見てみたかった」
豪快な笑い声で腹を抱え、唾を飛ばし飛ばし喋るので、無礼もここまでくるとシャルルは腹も立たなかった。そういう無邪気な罪のなさがゴルティエの取り柄であった。
「相変わらずでございますな、ゴルティエ殿は」
シャルルはそう苦笑いした。身内のことというのを除けば、シャルルにとってもあれはかなり痛快な事件だったのは確かだ。
「それはそうと、なかなか切れ者を召し抱えたそうではないか、カザルスが悔しがっておったぞ」
そう言いながらゴルティエはシャルルにちょっと遅れて広間の中央辺りをこちらに向かって歩いてくる、はっと目を惹く端正な姿の若者を見つけた。
「お、あれか! なるほどな、カザルスが悔しがるはずだ。あやつ、いつもながら大袈裟に、絵から抜け出したようなとか、天使の祝福を一身に受けたようなとか、気恥ずかしくなるようなことを言うておったのだが、まんざら嘘でもないのお」
シャルルは誰や彼やから声をかけられて、なかなかこちらに来られない従者を手で招いて呼び寄せた。
彼の回りを囲んでいた者たちが一斉に自分の方に目を遣り、〝おお、アンブロワ殿の従者であったか〟などと羨望の眼差しを向けたのがシャルルには随分誇らしく感じられた。
「コルドレイユのゴルティエ殿だ。カザルス殿同様アンブロワにとってはこの上なく大切なお方だ」
促されて頭を下げ名乗ろうとすると、ゴルティエは知っておるわ、とばかりそれを遮り、婦人にするように手を取り近づくと、
「ほう、噂に上るだけのことはあるのお。女に生まれておけば儂がたんと可愛がってやったものを、余計なものを付けおって!」
と豪快に笑いながらシルヴィア・ガブリエルの股間(こかん)を突いた。不意打ちを食らってうずくまっていると、ゴルティエは今度は彼の肩先を鷲掴(わしづか)みにし引き寄せ、酒臭い息を吹きかけながら小声で、
「カザルスのやつに尻を狙われんように気をつけろよ」
と耳打ちしたかと思うと、つんのめるほどの勢いで思い切り尻をはたいた。
何をする! と堪らず振り返ると、当のゴルティエは巨漢を揺らしながら喉の奥まで見えるほどの大口を開いて笑っていた。
このお方、憎まれぬのも一つの才能か、とシルヴィア・ガブリエルは苦笑いを返した。
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次回更新は11月11日(月)、18時の予定です。