第三章 ギガロッシュ
招きにあう諸侯からは、予めそれぞれの国の産物が土産物として届けられ、アンブロワからは葡萄酒の大樽が三個、コルドレイユからはマテウス河で捕れた魚と領主ゴルティエが自ら仕留めた鹿肉が届いていた。
それらを城の広い厨房で塩漬けにしたり、香草漬けにしたりするため料理人は多忙を極めていた。
シャルル・ダンブロワも今日は正装して奥方を伴いプレノワールに入った。勿論、シルヴィア・ガブリエルも随行した。ギガロッシュの果ての村で生まれ育った彼にとって今日のような大宴会は度肝を抜くものだった。
もう何度か訪れているはずのプレノワールの城壁でさえ、今日は訪問するすべての諸侯や領主の紋章を記した色とりどりの旗に飾られて、遠目にも華やかに賑々(にぎにぎ)しく映った。
普段こんなにも人がいたかと思うほど多くの使用人たちが忙しそうに右往左往し、食欲をそそる様々な料理の匂い、甘い菓子の香り、楽団の賑やかな演奏が入り乱れ、そこにいるだけで目の回る思いがした。
左右から伸びた柱の束が、上で弧を描いて交差する大広間の天井は美しかったが、今日はそれを覆い隠すほどに、外の城壁と同じく、赤や青、黒や紫、金や銀、色とりどりのそれぞれの諸侯の旗が頭上高く天蓋(てんがい)から垂れ下がっていた。
大広間の奥から豪快な笑い声が響く。
コルドレイユの領主ゴルティエである。品良く洗練された風貌のカザルスとはうって変わって、ゴルティエは見るからに剛胆な男である。
年齢はカザルスよりも八つほど年上で、もう老人という領域であったが、衰え知らずの元気旺盛な大男で、その昔国が平定される際には勇猛果敢な騎士として大きな手柄をあげた猛者(もさ)であった。
今は酒樽を丸ごと飲み込んだような大きな腹で、まことにこの男が馬の背に隆々と跨(またが)っていたのかと信じがたい姿になってはいたが、血色の良い赤ら顔で陽気に笑う姿には人なつっこさが感じられた。
「これはこれはゴルティエ殿、もう随分出来上がっておいでのようですな」
シャルルが傍に近寄って挨拶をすると、気がついたゴルティエは、おう、と五本のソーセージが生えたような手をかざして迎えた。