「あっ、このひと……」

それはまさしく、あの「おばちゃん」だった。顔も髪型も服装も全く同じだった。義理の姉妹ふたりでどこかの写真館で撮影したものだろう。俺は「おばちゃん」がこんなにもきれいな女性だったことに改めて気づかされた。

「まだ写真も珍しかった頃のものだよ。二人とも着物ではなくドレスを着ている。この頃は橋口家も裕福だったんだな」

裕福だったかどうかということよりも、俺はもう頭の中が混乱しそうになっていた。「おばちゃん」の想い出は、幼い自分が作り出した夢のようなものだったのだと、俺はこれまで自分に言い聞かせて無理に納得していたのだ。

「父さん、どうしてこの人が……」

「どうしておまえが幼い頃に彼女がそばにいたか、ってことだな」

父はすべてを知っているようだった。あの人はご先祖様の幽霊だったのだろうか? 母さんにはたぶん見えていなかったけど、父さんには見えていたのか? 父さんも知っていたのなら、あの頃どうして何も言ってくれなかったのか? 俺が頭の中に渦巻く疑問の嵐を口にしようとするのを、父は手のひらで制止した。

「今からすべてちゃんと説明してやるから、もう少し黙って聞きなさい」

そう言って父は、老眼鏡をしまうとぽつりぽつりと話しはじめた。それは橋口家のご先祖様にまつわる、世にも不思議な物語だった。