「ふみ」さん

「これがおまえの曾曾祖父さんと曾曾婆さんの写真だ。つまり父さんの曾祖父さんと曾婆さんというわけだ。明治初期の大変貴重なものだ」

こんなアルバムが我が家に伝わっているとは知らなかった。確かに明治初期に撮影されたものなのだろう。その「曾曾祖父さん」は軍人だったのだろうか。勲章をいくつも胸につけてサーベルを腰に佩き、白いズボンに黒い長靴を履いた軍服姿で、脚を少し開いて椅子に腰をかけている。

鼻の下には立派な髭を蓄えているが、父も俺も髭は薄い。たとえ伸ばしても密度が低いので、とてもこんなに立派なものにはならない。どこかで女系の遺伝が勝ったのかもしれないと思った。

「曾曾婆さん」は、色はわからないがレースを多用した明るい色のドレスを身にまとい、社交界の貴婦人といった姿だ。曾曾祖父さんの向かって右、やや斜め後ろに控えめに寄り添うように、椅子の背もたれに右手をかけ、反対の手には白い手袋を持って立っている。

「俺の曾曾祖父さんは軍人だったんだね」

俺の言葉を無視するように父は言う。

「その右の写真、それをよーく見てみろ」

父が指し示したもう一枚の写真は女性二人のものだった。構図は今の写真と同じで、一人が椅子に腰をかけ、その斜め後ろにもう一人の女性が立っている。椅子に座っているのは今見た俺の曾曾婆さんだ。

「おまえの曾曾婆さんの後ろに立っているのが彼女、曾曾祖父さんの実の妹の『ふみ』さんだ。おまえ、もう忘れたか?」

そう言われてじっくりと見て驚いた。