勝つためにすべきこと 張西厚志

そもそも張西が理事となり、最初に出席した理事会で公言していた。

「目標は五輪の金メダル。むしろどうして金メダルを目指さないんですか?」

日本一は現実的な目標でも、当時は誰も本気で世界など描いていない。夢物語を唱える自分に変わらず風当りは強かったが、持ち得る人脈を活かして動く。体操クラブが治療リハビリでお世話になっている、ダイナミックスポーツ医学研究所の土井副所長にフェンシングの現場やトレーニング方法を見てもらい、「ここからどうすればいいか」と聞くと「選手の体力測定をさせて下さい」と体力測定を行い、「このレベルでは勝てないですよ」と海外選手のデータと比較して一喝された。

当然ながら張西も同意見だ。むしろ同意を得たことで「やっぱりあかんよな」と燃え上がり、強化の現場へ積極的に携わり、医科学委員会を立ち上げ、フルーレ、エペ、サーブル、各種目のコーチ陣にも厳しくハッパをかけた。

並行して力を注いだのが、世界とのパイプをつくること。張西が理事になるまでは、日本協会が視野に入れるのは日本のみ。国際フェンシング連盟との接点も少なかった。だが、競技における世界的地位が低ければ、試合にも影響する。基本的に「相手より先に突いたほうが勝ち」というフェンシング競技で、同時に突いても両者にポイントが入るエペ以外は、双方のランプがついた場合、審判はどちらに攻撃権があるのかを判定する。

当然ながら選手の感覚としては「自分が先だ!」と主張するが、最終的なジャッジを下すのは審判。今でこそビデオで映像を確認することもできるが、以前はビデオチャレンジもなく、審判のみに委ねられる中、同じアピールをしても国際的に実績のある国の選手へ優位に働く傾向があるのは否めなかった、と張西は振り返る。