彼女はゆっくりと俺の隣の席に腰を下ろした。すぐにふたりの前に三三九度の酒が準備され、村長が「高砂」を謡うなか、ふたりの杯に酒が注がれ、作法どおりに飲み干すと、ちょうど高砂も終わった。

「ただいまをもちまして、中村翔太様、……様の御婚儀がめでたく整いました。そして、併せて中村家の当主交代の儀も滞りなく、翔太様が第十五代当主となられましたことを、ここに皆様にご報告申し上げます。まことにおめでとうございます」

万雷の拍手のなか、俺は助役の口上の中にあった彼女の名前を聞き漏らしたことに気づいた。だが、助役の脇坂さんにもう一度お願いしますなんてことを言えるわけがない。

そんなことはどうでもいいかのように村長が、「中村家のますますの繁栄を祈念して乾杯!」と、杯を掲げて大声を発した。それから宴会はますます盛り上がっていった。座敷では酔いつぶれて寝込んでいる人がいるかと思えば、庭では手拍子で唄を歌って踊っている人たちもいる。俺は花嫁の顔を見ようと、何度も料理に箸を伸ばすふりをして腰をかがめてみたが、綿帽子の下のその顔を見ることはできなかった。

俺は未成年なんてことはもうどうでもよくなって、やけ酒気味に酒をあおっていた。そして、四つ時(今の午後十時)となったとき、脇坂さんがまた立ち上がった。

「えー、皆さん。宴もたけなわではございますが、そろそろ新婚のおふたりにはお疲れと思いますので、お下がりいただこうと思います。まずは花嫁さんのご退出です。皆さん、拍手をもってお送りしましょう」

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次回更新は11月5日(火)、22時の予定です。

 

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