強制や武力によって結んだ条約や契約を不変のものとして利用する欧米的な考え方から、今日の中国の香港に対する条約違反や中華人民共和国が現在行っている朝貢制度にも似た覇権(中華)政策は、英国や欧米諸国にとって堪忍(かんにん)できるものではないだろう。

かつてのパクス・ブリタニカ(英国)の栄光とプライドがパクス・シニカ(中国)への反発となって、いずれ挑戦へと発展する可能性も否定できない。

中露間には、ネルチンスク条約やアイグン条約及び満洲領有をめぐる、日本を仮想敵国にした清とロシアとの密約があった。

さらには中共のマルクス主義受入れなどの歴史的背景から、中国はロシアに対して、他のヨーロッパ諸国とは大分と異なった親近感を抱いているように見える。

帝政ロシアの貴族制度と皇帝を頂点とした一部特権階級(士大夫)による専制制度の共通性、また中世のロシア諸公国が受けた二百五十年にも及ぶキプチャクハーン国(モンゴル王朝)による支配の歴史(タタールの軛)などが、騎馬民族の脅威に曝(さら)され続けてきた中華王朝の悲哀と相通じ合うものがあるのか。

本来中国はロシアによって脅され、不平等に領土や利権を奪われて来たにもかかわらず、欧米諸国に対する感情とは異なったものがあるようだ。

やがてその清国の属国として独立を阻まれていた朝鮮を挟んで、清と日本との間に戦略的確執が生じ、日清戦争へと発展することになる。