場は一気に静まり返った。
佐吉の正面、この大広間の向こう正面を介添人に手を引かれながら、白無垢の花嫁が現れた。それはゆっくりと廊下沿いに右に曲がり、この大広間の外廊下を進んで近づいてくる。そして、ついに部屋に入り、ゆっくりと佐吉の隣に腰を下ろした。綿帽子で顔は見えなかった。
結婚式は行わないのだろうか? この場は披露宴ではないのか?
この佐吉の疑問はすぐに答えが出された。中村家では、代々神式でも仏式でもない、人前婚がなされてきたのだ。
すぐにふたりの前に三三九度の酒が準備され、村長が「高砂」を謡うなか、ふたりの杯に酒が注がれた。作法どおりに飲み干すと、ちょうど高砂も終わり、助役が「ただいまをもちまして、中村佐吉様、初枝様の御婚儀がめでたく整いました。そして、併せて中村家の当主交代の儀も滞りなく、佐吉様が第十四代当主となられましたことを、ここに皆様にご報告申し上げます。まことにおめでとうございます」との口上を述べた。
大きな拍手が沸き立った。あまりのことに聞き漏らすところだったが、助役は佐吉の相手を初枝様と言った。隣にいるのはまさか、初枝なのか?
「それは初枝婆ちゃんだったんだね」
「そうだ」
「病気のお父さんはそれから……」