鬼の角

「ねえ、お爺ちゃん。体の具合でも悪いの?」

俺は、聞いていいかどうか、ためらいつつも無理に質問した。

「いいや。どこもなんともない。元気そのものだ」

「それじゃあ、どうして俺の跡継ぎのことをそんなに急ぐの?」

「それは、わしにもよくわからない。ただ……」

「ただ?」

「ただ、それを早くやらなければいけないと、わしを駆り立てる何かがあるんだ」

「それは、いつから?」

「さあ、今年の正月に幸一に帰って来いと催促した頃からかな。だが、今回おまえたちがやってきて、おまえの顔を見たとたん、もう猶予がないと感じた。いやそれは確信だった。今夜を逃すわけにはいかないとな」

俺は、爺ちゃんが病気ではなく、事故で命を落とすのではないかと思った。爺ちゃんもきっと、自分にはそのような運命が待っていると思っているのだろう。でも俺も爺ちゃんもそのことを口に出すことができなかった。

「お爺ちゃん。俺はここで知らない誰かと結婚してこの中村家の当主を引き継ぐ。そんな運命なんだろうか?」

「代々このような形で結婚し、家督を譲ってきたのだから翔太、それが運命かと聞かれればそうかも知れんな。だが……」

「だが何?」

「おまえには、わしを含め中村家代々の当主とは違うところがある」

「違うところって?」