鬼の角

「さて、わしらのご先祖様の出世話はこれくらいにして、中村家当主に代々課されている秘事について話すとしよう」

「秘事?」

「中村家は、始祖である上田八郎太の時代から、ある能力を身につけているという『噂話』があることについては、さっき話したとおりだ。だが、それはあながちすべて嘘でもない」

「爺ちゃんの角も力を発揮したことがあるの?」

爺ちゃんは、自分の角の先を手のひらで撫でながら笑みを浮かべた。

「あるといえば、ある」

「何それ、どういうこと?」

爺ちゃんは、遠くを見るような目をして話しだした。それはもう六十年以上も昔のことになる。爺ちゃん(佐吉)が二十歳になったばかりのある朝のことだった。今の俺と同じように佐吉はこの部屋に、父親から呼び出された。そして、部屋に入るとすぐに「今夜おまえの婚儀を執り行う」と唐突に告げられた。封建時代の名残ともいえる旧家のしきたりでは、親が決めたことは絶対だった。それでも佐吉は言葉を返した。