二階の芳江さんの部屋にあるラタンチェアーの上に僕用の丸い布団を敷き、部屋の隅には、ご飯と飲み水用のお茶碗も用意してくれた。芳江さんはいつも僕と一緒に遊んでくれていた。でも学校に行っている間は、僕はずっと部屋で昼寝をしながら、芳江さんが帰ってくるのを待っているしかなかった。
ある日、(寂しいよう、お腹が空いたよう)と、大きな声で鳴いていると、聞きつけた智子ママが部屋に入ってきた。
「しょうがないわねえ。ちゃんと面倒も見られないくせに、飼ったりして。ニャンニャン鳴かれたら、気になって仕方ないじゃないの」
と文句を言いながらも、僕のご飯を出してくれると、
「にゃん太郎、いい子にしているのよ」
と僕の頭を軽く撫でて部屋を出ていった。智子ママは、ホントは良い人かもしれないと少し安心した。
そんなことが何度か続き、いつの間にか僕の世話は智子ママの役目になっていった。狭い部屋の中に閉じ込められるのは、僕は嫌いなのだ。
芳江さんは僕を見つけると、
「ロッシー、元気? いい子にしてた?」
と思い出したように言うだけで、(何だい、遊んでよ)と僕が答えても、無視して他の用事に移ってしまうようになった。
忙しいのか、僕に興味がなくなったのかはわからない。僕は(いいよ、これからは智子ママが僕のママだから)と不貞腐(ふてくさ)れて、本箱の上に飛び乗った。僕は高い所が好きなのだ。
僕の居場所は特に決まっていない。大きくなるにつれて、だんだん智子ママの暗黙の許可が下りて、リビングの出窓や、二階の和室の棚に置かれた箱の中や、押し入れの布団の上など、家中どこでも自由に動けるようになった。
次回更新は10月28日(月)、22時の予定です。