筋萎縮性側索硬化症患者の介護記録――踏み切った在宅介護

刻刻と、刻刻と

能天気な私といえども、容易ならない現実を突き付けられた感がいたしました。私はまだ退院したばかり。杖にすがってやっと立っている状態です。

思わず身震いがいたしました。しかし当のご本人様はうつらうつら。ただ、今は周りが見えているのやらいないやら・・・。

ふと目を覚ますと、ベッドの主は、ひとしきりあちらこちらを確認するように目を泳がせています。真夜中であっても、看護師さんは相変わらず忙しそうに小走りに走り回っていました。

看護師さんが私の杖にすがりついて立っている不安定な姿を見て、安定の良い、座り心地の良さそうな大きな椅子をお持ちくださり、夫と視線が揃えられる位置に椅子をセットしてくださいました。本当にその気配りを心からありがたいと思いました。

娘から、夕べから今までの経過とともに、介護関係の方から、娘が疲れないようにと、そっとジュースとチョコレートをいただいたとの報告も受け、この忙しい緊張した最中、いつ、いかなる時にも弱者を思い遣る心を忘れないというその行き届いたお心遣いに『医』の根源を見た思いがいたしました。

大きな心がこういう時必要なのだとこの歳になって初めて気づかされました。呑気な自分が恥ずかしくなりました。お粗末なことでした。お心遣いありがとうございました。

本人は相変わらず、ただうつらうつらしています。時々目を開けはするものの、その間隔が狭まって、ほとんど目を開けなくなってしまいました。

病室のみなさんは、黙って堀内の手を握りしめ、お帰りになられます。みなさんはそれぞれ心の中で今までの思い出などをお話になっているようで、そばにいる私は身の引き締まる思いを感じました。

そばの計器は、これらの緊迫した空気に関係なく、律義に値を間断なく刻んでおります。