「爺さんがこんなことを急にやりだすとすれば、その理由はただひとつだ」
「それは何なの?」
「爺さんが、自分の余命があまり長くはないと考えているのかもしれない、ということだ」
「そんな……」
「代々、自分がこの世を去る前に跡継ぎは決められてきた。本来息子に嫁を娶らせるときには、親はまだ十分に元気なはずだ。だが、息子の俺には跡継ぎの印がなく、孫のおまえに隔世遺伝した今回は異例といってもいい。爺さんは、死ぬに死ねない状態のまま、ここ何年も苦しんでいたわけだ。もしかすると、そのストレスが爺さんの体を蝕んできたのかもしれない。爺さんにとっては、このタイミングを逃して自分が他界してしまって、おまえを正式な中村家の跡継ぎにできなければ、ご先祖様に合わせる顔がないということなのだろう」
「だからって、どこの誰かもわからない女性と結婚しろというのは、受け入れられるわけないじゃないか」
俺が、頭に血が上り始めたそのときだった。爺ちゃんが俺を呼ぶ声が聞こえた。
【前回の記事を読む】結婚相手の顔も知らない自分の婚礼の為に村人百五十人が集まる...?! それが村のしきたりだ、と父は驚きの説明を...
次回更新は10月31日(木)、22時の予定です。