純也が指差した先は、よほど混む時間帯でなければ埋まらない、隅の陰気な席だ。そこを一人で陣取っている猫背の女。できれば関わりたくないタイプだが、確かに硬貨を交換した理由は気になる。

「ちょっと待て」

ひどくつまらなそうな声を出したのは、純也だ。

「二人揃って緊張感のない顔しやがって。質問変更だ。国生、あの女のスリーサイズを訊いて来い」さすがに顔が引きつった。訊きづらい上、そもそも知りたくもない。見兼ねた様子の壮亮が、小声で割って入った。

「当然、俺も一緒に行く。でもさすがにそれはないだろう。あの雰囲気だと、そういう冗談には免疫がないぞ」

だが純也は、頑として指示を曲げようとしない。むしろ、ひと波乱起きてくれなければ張り合いがない、とでも言わんばかりだ。

あまりもたもたしていると、相手は純也だけに、だったら口説いて来いなんて悪ふざけを言い出しかねない。もちろんスリーサイズだって嫌には違いないが、もし女が怒っても平謝りして逃げて来ればいい。後腐れがない分、口説くよりはずっとましだ。

「壮亮はここで待っててくれ。かなり内気そうだし、知らない男が二人だと怖がるかもしれない」

一旦は提案を渋った壮亮も、国生の言い分をもっともだと思ったようで、

「──わかった。この借りはきっと返す」

と言うと、申し訳なさそうに頭を下げた。