ベッドサイドの電話にメッセージを知らせるライトが点滅していた。私はメッセージを確認し、電話した。出たのは低音のはっきりヨーロッパ訛りとわかる男性だった。
彼は言った。
「今朝のあなたの講演を拝聴致しました。とても興味深いものでした。金融戦争に関するところは新鮮でした。この問題につき話し合ってみたいので、是非お目にかかりたいと思ってます。場合によってはコンサルティング契約の話になるかもしれません」
地政学のコンサルティングは、諜報の仕事と講演を含め、当時私が今後進めようとしていた分野だったので、この電話の相手がどのような真意を持っているのか探り出す価値がありそうだった。
「オーケー、有り難うございます。今日はここに滞在しております。ロビーのバーで3時でしたら、お会いできますので、その時話し合いましょう」と私は言った。
ホテルには幾つものバーがあった。彼に私のことがわかるよう携帯の番号を教えた。どっちみちロビーのバーに行くつもりだったので、電話の相手と会うのは迷惑でもなかった。
普段ウイークデイには飲酒しないのだが、フォンテンブローに滞在しながら、バーに行って雰囲気に浸らない手はないと思っていた。
「有り難うございます」と相手は答えた。
「連れと一緒に参ります」と電話は切れた。
私は彼らが来る前に一杯飲めると思い、ゴッサムステーキにあるバーに2時45分に着いた。私はいつものマウントゲイラムとライムの入ったトニックウオーターを注文した。そしてリラックスして、周囲を見回した。その訪問者らはすぐに私を見つけた。
バーはその時間にはほとんどガラガラで、しかも彼らは私のことを講演で知っていた。彼らは私のテーブルまで歩いてきた。そして自己紹介したが、座ろうとはしなかった。私は彼らを見て、信じられない思いだった。
男はどっしりして浅黒く、背は低かった。5フィート4インチくらいで、ネクタイ無しのスーツ、シャツ姿だった。彼の連れは女性で、ハイヒールを履き、頭一つ高く、ストレートの黒髪で胸元が広く露出したロングのシルクドレスを着ていた。アジア系に見えたが、特に漢民族ではなく中央アジア風だった。
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次回更新は10月26日(土)、8時の予定です。