婆ちゃんは呟くようにそう言うと、慌てて奥に引っ込んでいった。

「こりゃ大変だ。爺さんいったい何を考えているんだ」

間を置かず、今度は、婆ちゃんの真似をするように父が言う。

「父さん。どうしたんだよ」

無関心なはずの美香も異変を感じたのか、父の次の言葉に耳を澄ませている。

「もう少ししたら、村のご夫人たちがたくさんやってくるから。翔太、美香、おまえたちも準備を手伝うんだ」

「何のことだよ。父さん、ちゃんと教えてよ」

「時間がないから、体を動かしながら教えてやる。父さんは、蔵の鍵を取ってくるからおまえたちは先に蔵の前に行っていなさい」

そう言うと、慌てて奥に入っていった。親子とはいえ、その動作はさっきの婆ちゃんのそれとそっくりだった。なんとなく尋常ではない何かが始まる予感で、美香も文句を言わず俺と一緒に裏庭に向かった。

大広間の奥の隠し扉から離れに続く渡り廊下の、その途中にある靴脱ぎ石から庭に降りて、俺と美香は裏庭の蔵の前に来た。

【前回の記事を読む】4年前にも出会ったあの子にばったりと再会。「もう一度会いたい」そう思い口走った言葉に彼女は...

次回更新は10月29日(火)、22時の予定です。

 

【イチオシ記事】老人ホーム、突然の倒産…取り残された老人たちの反応は…

【注目記事】 見てはいけない写真だった。今まで見たことのない母の姿がパソコンの「ゴミ箱」の中に