「病衣も用意できますが、若い人はジャージを着ている方も多いです。その場合はご自分で病棟の洗濯機で洗濯をしてください。予約制になっているので予約簿に必ず記入してください。その他必要な物があったら一階に売店もあります。貴重品は保証ができませんので現金も最低限にしておいた方がいいです。

こちらの入院診療計画書を読んで頂いたら署名欄にサインしてください。また後で頂きます。その他ご質問ありますか?」

小林という中堅くらいの女性看護師が随分早口で小瀬木海智(こせきかいち)に入院時の説明を終えた。前半部分に関してはぼーっとしていたためかあまり内容を覚えていない。

「あの、入院中にPCは使用できないんですか?」

「PCは使用できません」

「どうしてです? 何の支障もないと思いますが」

「そういう決まりです」

小林は冷たい口調できっぱりと答えた。海智は納得がいかなかったが、それ以上口出しさせないような雰囲気をこの看護師は持っていた。彼女が四一八号室を出ていくと海智は他にすることもなく、二週間程の仮の住処の支度を始めた。

そもそも彼はこの入院自体あまり納得が行っていない。彼は高校三年の春頃から原因不明の病に侵された。とにかく何をするにも恐ろしい程に疲れるのである。

この位の疲れで負けて堪るかと無理した日には夜になると必ず熱が出る。熱と言っても三十七度五分にも達しない微熱なのだが、体のきつさが余計に強くなり、関節なのか筋肉なのかはっきりしないが全身の痛みまで出てくる。

そうなると夜も眠れずに、翌朝ベッドから出るのが恐ろしく苦痛なのだ。そのため高三の一年間は殆ど登校できなかった。途中で水山高校から横浜の通信制高校に転入して何とか卒業はできた。

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次回更新は10月27日(日)、11時の予定です。

 

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