ああ、スズキ青年は告発によって権力のターゲットとなってしまった。テレビの放送内容が急に変わり、スズキ青年を攻撃し始めた。ニュース番組でスズキ青年は被害者にも加害者にもなった。
悪魔的犯罪者であり矮小な変人であり、相手にするには危険であり、重要に扱う必要はない小物として表現された。スズキ青年の素性は調べられ、その行状をあげつらわれた。
放送道徳委員会との通話はいつの間にか切られており、発信音だけが鳴り響いた。友人は「万事休すだね。君のような勇敢な若者がいたっていうことを、僕は生涯忘れない」と、可哀想な生き物を見るような目つきで言った。
スズキ青年はすでに、泣き出したい気分を通り越して抑鬱(よくうつ)症状となった。頭を抱え、次に耳を塞いだ。
「僕は、静かな環境で食事を楽しみ、友人と語らいたいだけなんだ……」
テレビはいよいよスズキ青年に対して抑圧的な話題をアパートメントに運び、アナウンサーは脅迫的なニュースを流し、タレントはこぢんまりとしたネタで嘲笑をした。
「もう僕は生きてゆけない……」
絶望したスズキ青年は力尽きてうっぷした。生命力はもはや底をつき、最後の断末魔の替わりに手近なものをつかんでは引き寄せた。
つかんだものはテレビのコンセントだった。コンセントを無意識のうちに引き抜くと、テレビはぶすっという音を立てて消灯した。
「ああ、テレビが消えたよ!」
信じられない、という顔をして友人は叫んだ。電源を落とされたテレビは、夕暮れの静かな夜の訪れに、墓石のようなたたずまいを見せた。すると友人は、あっ、という声を上げた。
「今夜見たい番組があったんだ……」スズキ青年はカッとなり、「君のような奴は友人ではない! もう帰ってくれ!」と怒鳴りつけた。
【前回の記事を読む】友人派遣所から派遣された友人と見ているテレビはくだらないプロパガンダを流す。スズキ青年は音量を下げようとするが...