事実、最初の患者は脳神経外科医、二番目の患者は心臓血管内科医を呼び出して対応してもらったのであり、彼自身はただトリアージをしたに過ぎない。そればかりか看護師にバイタルサインの報告を受けるだけで、診察らしいことも殆どしていない。

ただ、日曜日の夕方に他科の先輩達を呼び出して文句の一つも言われるのでないかと気を揉むのが彼にとっては相当のストレスなのである。

今城病院はその名称からも察せられる通り、彼の祖父が開設した病院である。祖父は既に他界したが、現在は彼の父が理事長をしている。院長は整形外科部長も兼ねている鈴木である。蒼は将来の有力な院長候補には違いないが、この病院は医療法人であるために、それが必ずしも約束されているわけではない。とにかく彼は目上の人間には嫌われないように普段から気を付けていた。上から嫌われることが彼の院長への道を閉ざしかねないと常に警戒している。

そんなに世間体が大事なら、他の医療従事者に対しても同様の態度をとれば余程評判がよくなるはずであるが、自分と同等若しくは下の立場と見るや忽ち不遜な態度に変ずるのである。これが医療従事者だけでなく、患者に対してもそのように差別するので、上はともかく、周囲の評判は研修二年目にして既に地に落ちている。

三番目の患者は到着前から既に救急隊から四肢麻痺があり、脊髄損傷の可能性が高いと報告されていた。本日の整形外科のオンコールはよりによって鈴木院長なので、蒼は救急車の到着前から尚更イライラしていたのである。

蒼は上から患者の顔を覗き込むと「ちっ、やっぱりお前か」と毒づいた。

次回更新は10月20日(日)、11時の予定です。

 

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