「他の病院もいくつかあたったんですが、整形外科がないと言われ、すべて断れまして・・・・・・」

女性隊員は申し訳なさそうに弁解した。

彼が激怒するのも無理はないかもしれない。二〇二二年七月十七日、日曜日の午後十七時、この病院の近くで交通事故が発生した。三人の若者が乗った乗用車が赤信号を無視して交差点に進入し、左から来たトラックに衝突し乗用車は大破した。トラックの運転手は幸いにも軽傷で済んだが、三人の若者はシートベルトをしておらず、救急車で搬送された。

特に助手席に乗っていた男は車外に投げ出されて頭部外傷を負い、意識不明の重体で既に一時間前にこの病院に搬送された。頭部CTで脳挫傷と外傷性脳内血腫と診断され、減圧開頭術を受けたが意識は回復せず、奥のベッドで人工呼吸器に繋がれている。

運転していた男はハンドル外傷で心タンポナーデとなり、ショック状態でやはりこの病院に搬送された。こちらは心嚢ドレナージでショックを離脱し、意識も回復している。

この二人の搬送でERが多忙を極めている時にさらに三人目が搬送されてきたわけである。通常このような複数の負傷者が搬送される場合、重症患者が高度救急医療が可能な病院に集中的に搬送されるのはやむを得ないが、その場合比較的軽症患者は他の病院へ搬送するのが暗黙の了解と思われる。

しかし、この田舎町ではこの今城(いまき)病院以外近辺に交通外傷患者を搬送できそうな病院がない。だから救急隊の判断もやむを得ないわけだが、次々に重症患者を送り付けられたこの今城蒼(あおい)という若い医師は遂にパニックを起こし、血中アドレナリンが急上昇してそのストレスを小柄な女性隊員にぶちまけたのである。

しかし、彼は確かに本日の夜間のER当番ではあるが、彼自身は二年目の研修医であり、重症患者に対応する能力を有しているわけではない。