「昔は、この地域は地元の住民が多かったと聞きます。しかし、別荘地として十燈荘が開発され、今では国内でも折り紙つきの高級住宅街になりましたね。聞いた話だと、自治会で、土地ごとに建築に使って良い敷地面積まで決まっているとか?」
「自治会のことは、詳しく話せませんけど……まあ、色々制約があるんですよね」
ため息をついた堀田に深瀬が訊ねる。
「ここは、単刀直入に聞きましょう。排他的な高級住宅街で、小さな花屋をやっているのは肩身が狭くありませんか? セレブと言って良い他の住民達から疎まれたことは?」
この質問に、堀田は少しだけ表情を曇らせた。
「つまり、私が貧乏人だと夏美さんにさげすまれて、その腹いせに殺したとでも言いたいんですか?」
「そういうわけでは」
深瀬は動じずに答える。
「ここは私にとっては故郷です。どちらかというと、後から来たお金持ちの方々の方が新参だと、心の中では思っていますよ。もちろん言いませんけど。私は藤湖を見て育ったんです。それって、素晴らしい特権で、自慢できることなんですよ」
そこまでのことだろうか、と当然深瀬は思ったが、堀田の言うに任せた。ここに、彼女の本音が隠れているような気がしたからだ。
【前回の記事を読む】6年前に引っ越してきた一家。何故、母親は急に去年の4月から働き出したのか?
次回更新は10月14日(月)、21時の予定です。