「まあでも基本は自動散水機を使ってますから。配達している間にセットしておくことが多いですね」
「わかりました。ところで、元店長のあなたの母親も、ここに住んでいるんですか?」
「いえ、いま母は藤市民病院に入院中です。三年前からは出たり入ったりですね」
それは秋吉春樹が緊急搬送された病院でもある。しかし、この地域の中核病院と言えばそこなのだから、深瀬はそれを不自然だとは思わなかった。
「差し支えなければ、どんな病気かお伺いしても?」
「主には認知症で、他の病気もありますけど、それで薬を飲み忘れてしまうし、私も仕事があってずっと見ていられないので……体調が悪化したら病院にお願いして入院させてるんです」
「ここからでは、お見舞いも大変でしょう」
「ちょっと遠いですね。でも車で四十分程度ですから」
深瀬は軽く頷いた。
「食料品店もないと聞きますが、十燈荘は暮らしにくい町ではないですか?」
「ええ、そうかもしれません。でも、食べ物も日用品も買いだめすれば良いだけですし、何より藤湖が綺麗ですからね」
「あなたもここがお気に入りですか。その感覚は、私にはわからないんですが」
「それは残念ですね」
その堀田の言葉は、心からの同情のように深瀬には聞こえた。藤湖の素晴らしさを理解できないなんて可哀想、とでも言いたげな表情を向けられる。妙な視線をもらった、と思いながらも深瀬は質問を続けた。