秋吉家から車で五分ほど下った場所に、その花屋はある。深瀬は駐車場に車を停め、細い体をゆらゆらと不気味に揺らしながら店の入り口に向かった。

深瀬は四十二歳。静岡県警に所属して二十年以上経過している。最近十燈荘に来た用事は、藤フラワーガーデンから少し外れたところにあるクリニックへ定期検診に通うというものだった。殺人事件が起こっても住民に愛されるこの町にとって、自分はたまに訪れる異物だろうと思っている。

OPEN表記の木目調の看板が掛かった小さな花屋は木造で、温かみのあるインテリアがいくつも並んでいた。

平屋で奥の方は住宅になっており、そこが第一発見者、堀田まひるの住む家のようだった。入り口を開けると、からんからんと綺麗な音色が響き、花の香りが一気に広がった。

「いらっしゃいませ」

堀田が快活な声で客を出迎える。しかし、振り向いた彼女は表情を硬くした。

「お客さんじゃないですよね」

彼女が目にしたのは、長身でクマのひどい髪がボサボサの中年男だったからだ。とても花を注文しに来たようには見えないし、それは事実だった。

「ええ、これは失礼。私は静岡県警の刑事で深瀬という者です。ちょっとお話よろしいでしょうか」

「ええ、はい。いらっしゃるとは思っていましたので」

カウンター越しに堀田が答えた。堀田は水で花を洗いながら、コンロでお湯を沸かしていた。