アイアムハウス
一
「秋吉春樹が家族を殺したという可能性もある。自分も被害者になることで疑惑を逸らすのはよくある手だ。誰か来るまで待って、警察や救急に通報するよう仕向けたのかもしれない」
「深瀬さん、春樹くんは意識不明なんですよ。医師の話では、もう意識を取り戻す可能性の方が低いんです。仮に家族を殺害したとしても、堀田さんの発見と通報が遅ければ間違いなく死んでいたんです。犯人が、そんな危ない橋を渡りますか。ギャンブル過ぎませんかね」
「心中の可能性を見逃していないか?」
「それにスマホも全員分見つかりません。一家心中なら、灯油を撒いて家を焼いたって良いわけですから、こんな猟奇的な殺人をする理由になりますか」
子どもを庇う笹井の反論に対し、深瀬は不機嫌を顕わに言い放った。
「おい、警察官でいたいなら一つだけ教えてやる。下手な常識は捨てることだ。そういう理屈や理性じゃ片付けられない怪物が社会には蔓延(はびこ)っている。長く警察官をやっていれば嫌というほど出会えるさ」
笹井は唾をごくりと飲み込んだ。
「遺体で吐いているようじゃあ、お前には無理だ」
「えっ、なんで」
確かに、笹井は深瀬の到着前に一度吐いている。それをどうしてこの人が知っているのかと、笹井は動揺した。まるで魔法のような、あるいは名探偵のような台詞だと思った。言った深瀬は、何事もなかったかのように訊いてくる。