鬼の形相になり瞳孔を開いたまま怒鳴る男に、笹井は恐怖した。警官として、尊敬できる態度ではなかった。笹井以外の捜査員も、びくついた様子で階段を下りてきた深瀬をちらちら見る。
「俺は第一発見者の堀田まひるに話を聞きに行くため、藤フラワーガーデンへ向かう。帳場にはそう伝えてくれ」
帳場とは捜査本部を意味している。本来深瀬も出席しなければならない立場で、それを無視して良いわけがない。けれど深瀬は上着の内ポケットからスマートフォンを取り出し、何やら検索を始めるだけだった。
「わかりました……。そう言っておきます。指示されたことも進めておきますから」
「大中 (おおなか)管理官にはこっちから連絡を入れておく。調査結果はすぐに報告しろ」
そう言って深瀬は一人、秋吉家を出て行った。残された笹井も、静岡中央市の県警本部に戻るべく家を出た。
「house……。家、か」
振り返った家は、中の住人がいなくなったことなど気にもしていない様子で、悠然と別荘地に佇んでいる。ほんの一日前まで家族団欒の象徴であったはずの場所での凶行を思って、笹井は拳を握りしめた。
殺人事件など、絶対に許してはならないのだと。
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次回更新は10月10日(木)、21時の予定です。