「秋吉春樹の警備態勢は?」

「……はい、本人は集中治療室ですが、入り口には二名の警察官が常時待機、二十四時間態勢で警備についています。一命を取り留めたと知った犯人が現れる可能性もあるので」

「一刻も早く意識が戻ることを願うが、継続して秋吉春樹の素行も調べろ。学校での授業態度から成績、好きな食べ物から趣味まで」

「わかりました」

これで、四つの現場検証が終わった。単純な一家心中や不慮の事故ではない。その殺害方法には何かしらのメッセージ性があると誰しも感じるだろう。それを解いていくのが刑事の仕事である。

この常軌を逸した凄惨な現場で眉ひとつ動かさず、淡々と周囲を見渡す深瀬に、笹井は恐ろしさを感じた。

一人一人の遺体を見渡し手や足、こめかみ、耳の裏や、ポケットの中身、顔の向きや角度まで、正確に調べつつ、深瀬はメモを取りもしない。全て暗記しているのだろう。

そのとき笹井の電話が鳴り、彼は連絡を受けて頷く。

「深瀬さん、上からです。特別捜査本部で捜査会議を開くので、全員出ろとの連絡が」

「お前が行け。俺は出ない」

「待ってくださいよ。あの木嶋さんですよ、なんて言えば良いんですか」

笹井はそう言いながら、去ろうとする深瀬の前に回り込む。それは、深瀬の逆鱗に触れた。

「俺に近寄るなと言っただろう。俺は誰も待たない。人に関心などないからな」