映画『阿弥陀堂だより』南木圭士 原作 
小泉堯史 監督 東宝 二〇〇二年

人生には休養も必要

映画監督小泉堯史氏の『雨あがる』(二〇〇〇年)に続いての作品。彼は名監督黒澤明の弟子である。原作は平成元年に『ダイヤモンドダスト』で第百回芥川賞を受賞した南木佳士氏の同名小説。

氏は医師でもある。映画では奥さんが医師になっているが。南木佳士氏は以前多くの癌患者の死を看取って鬱病になった。そこで生まれ故郷の田舎に引っ込んだ。そこの山河は美しく、人々の心は優しく、氏の心は次第に癒されていった。そんな体験が基になって書かれたものである。

キャストは、ヒロイン美智子(樋口可南子)、その夫孝夫(寺尾聰)、この二人が仲睦まじい夫婦としてお互いを支え合っている。また、阿弥陀堂で生活するおうめ婆さん(北林谷栄、撮影当時は九十一歳)、さらに、名だたる俳優、香川京子、井川比佐志、吉岡秀隆、田村高廣、そして映画初出演の小西真奈美。

映画のあらすじは、東京に住む夫婦、夫は小説家でかつて新人賞を貰ったことがあるのだが、その後は全く売れていない。妻は大学病院の医師で最先端の医療に携わる。ところがある時パニック障害という原因不明の心の病に罹ってしまう。雑踏の中で突然倒れるようなことがあり、医師としてやってゆけなくなる。

そのため二人は夫の故郷信州へ移り住み療養することにした。妻は週三日午前中だけ保育園に併設されている診療所に通う事となった。村人は良い先生が来てくれたと喜ぶ。

この夫婦が先ず訪れたのが山の中腹にある阿弥陀堂。堂守のおうめ婆さんは九十六歳だが、元気にこの阿弥陀堂で暮らしている。阿弥陀堂から見下ろす風景は素晴らしく、美しく雪をいただいた山々も信州らしい風景である。

この阿弥陀堂で夫は少女に出会う。少女は村役場に勤めているが、喉の病気が元で声が出ない。彼女はおうめ婆さんの話を聞いては、村の広報誌のコラム『阿弥陀堂だより』を書いている。おうめ婆さんはお堂の周りに野菜を作り質素に暮らしている。「私がこの歳まで生きられたのは貧乏だったからです。貧乏に感謝します」という言葉は印象的であり、俗人ばなれしている。