孝夫は昔の恩師(秘伝の「剣の舞い」を孝夫に伝承する)が癌に冒されながら、淡々と死を迎えようとする生き方に感銘を覚える。また、二人は信州の自然や子供達にふれ、渓流釣りや散策を楽しむ。そして妻の病気はだんだん恢復してゆく。

ある日、『阿弥陀堂だより』を書いていた少女が悪性の病に冒されていることが妻の診断によって発見される。彼女を救うには手術をする必要があった。妻は近くの都市にある病院の若い医師に協力し、彼女の手術をフォローする決心をする。そして手術は無事成功。

妻は徐々に自信を取り戻して行き、新しい診療所の初代所長になってくれという村長の申し入れを受けるのである。

この映画の中では多くの地元の人々が出演し、ストーリーの中に組み込まれている、たとえば夫が広報誌を配るため各家を訪れ、交わす会話の相手とか、診療所の待合室に集う老人たちとか、稲刈りに勤しみ、田で昼食を取っている場面とか……。

定点で四季を通して撮影された棚田の風景の移ろい、阿弥陀堂の高台から見下ろす町並みや流れる川の風景。信州の美しい自然も十分に楽しめる。

この映画から受けるものとしては、一つは夫婦という共同生活者がお互いをいたわり合うことの大切さ。それから、「生き方」ということについて、頑張れる時は頑張ればいい、

でも、疲れた時は休むことが大切であり、がむしゃらに生きてそして倒れるより、たとえ落ちこぼれても淡々と生き抜いていくことが大切だという観点。

そして何よりのメッセージは素朴、質素に生き、思い煩うことなく自然を楽しみながら生きていると知らぬ間に九十六歳になっていたという阿弥陀堂のおうめ婆さんの生き方である。

水の音を聞いて眠りに入る。こんな静かな安らぎはない。

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