深瀬は遺体の右手に触れて硬くなった指を外し、握っていたボールペンを近くにいる鑑識に手渡した。パシャパシャとカメラのシャッター音が書斎に響き渡る。

「当人以外の指紋が出たら教えてくれ」

「深瀬さん」

笹井が眉間に皺を寄せながら訊ねた。

「どうしてそう推理できるんですか?」

「この遺体は椅子に座っている」

深瀬は不機嫌そうに答えた。

「座った状態の人間の胃や食道は収縮している。そこにゴルフボールを入れるのは難しい。体内に、効率的に胃が破裂するほど押し込むとなると、できるだけ肉体は平行な状態にしておくしかない。

よって、床に寝かせてゴルフボールを詰めた後、遺体を椅子に座らせたと考えられる。それにはかなりの筋力が要る。女性ならば単独では無理だ。ここから推定すると最低人数は男一人、女性が交じっていた場合二人組となる」

笹井はメモを取りながら頷いた。

「二人の方が犯行は楽でしょうね」

「そういえば、玄関の鍵は壊されていなかったな。他は?」

「どこにも無理矢理侵入した形跡はありません。鍵の閉め忘れがあったら別ですが」

「秋吉家の誰かが家に招き入れているのなら、顔見知りの犯行かもしれん。この十燈荘では知らない顔が一番目立つだろうからな」

 

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次回更新は10月5日(土)、21時の予定です。

 

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