アイアムハウス
一
深瀬はしゃがんだり、角度を変えたりしながら、現場の状況や遺体のポケットや靴下の向き、内ポケットまで虱潰 (しらみつぶ)しに見ていく。ポケットに入っていた財布の中にはクレジットカードや身分証、会員証やポイントカードなどが残されていた。
「部屋を荒らしたのに、財布は盗っていかない。物取りか怨恨か」
「今のところ、土地の権利書や印鑑、通帳も残されています」
「そうか」
「しかし、現時点の情報では犯人は絞り込めません。すぐに藤市全域に規制線を張るべきではないでしょうか。検問などを行い、犯人の動きを封じるべきです」
「藤市の人口は?」
「ええと」
鞄からいくつもの書類を取り出して、それを見ながら笹井が答えた。
「約十万人です」
「そのうち、十燈荘は?」
「約二百世帯です。別荘扱いで住民票がない世帯もありますので、正確な人口は割り出せませんが、聞いたところによると三百名くらいとか」
「暮らしにくい場所だろうな。コンビニもない」
「それはそう思います」
「十燈荘への出入りは既に規制してある。ここから出る道は一つだけ。藤湖トンネルを通る必要があり、出入りする者の身分証はチェックする形だ」
「それはそうですけど、それだけじゃ足りないと思うんですよ。既に十燈荘の外に犯人がいたら、意味ないじゃないですか」
「そうだな。しかし、それを決める権限は俺にはない」