「捜査会議で提案しないと」
笹井の言葉に深瀬は頷かなかった。
「まだあと三人分現場を見なければならないが、その後の聞き込み……捜査範囲は半径五キロ圏内で絞れ。その情報をもとに実況見分などを行うように所轄には伝えておけ」
「なぜ絞るんですか?」
笹井に問われた深瀬は立ち上がる。
「お前も知っているだろう。十燈荘は特殊だ。この山奥にありながら、高級住宅街として名を馳せている。住民も、いわゆるセレブが多い。その中で、この秋吉家は子どもがいるのが特殊だ。ここには学校がないから、藤市にある学校まで車で通わなければならない。そうまでして、ここに住みたいという心理は俺にはわからんが……。
とにかく、子どもがいるという条件は他の家とは違うわけだ。この状況下で、怨恨の可能性があるのなら、近くから潰していくのが定石だろう。逆によそ者がいたならば、目撃情報も出るだろうし」
「わかりました。調べてみます。所轄にも依頼しておきます」
笹井が藤警察署の職員に声をかけに行く間に、深瀬は本棚にある書籍を見つめ、引き出しを出したり本を開いたりと現場を再度チェックし始めた。
「ここも、掃除が行き届いている」
そう言うと深瀬はドアの縁を触った指を見つめた。
「ええ、妻の夏美さんは掃除や料理が趣味だったみたいです」
戻ってきた笹井がそう伝えた。
「とても明るく穏やかな女性だったと、第一発見者の堀田さんも話していたそうです。よくSNSに料理の写真を投稿していて、人気のあるアカウントだったみたいですね」