「それにしても……もし、当人に意識が戻った瞬間があったとしたら、その痛みは想像を絶します。本当にひどい殺し方ですよ。被害者に深い恨みを持つ者の犯行としか思えません」

「断定するなと言っただろう」

深瀬はそう繰り返し、それから訊ねた。

「このボールは、もともと家にあったものか?」

「わかりません」

「では、秋吉航季のゴルフクラブのセットはこの家で見つかったか?」

深瀬はゴルフボールに印字されているロゴに目をやった。

「いいえ、そういうものは家にはありませんでした。あと、このゴルフボールは特定の店舗限定です。ネット販売もしておらず、売っているのは藤市にある、藤ゴルフクラブの売店だけだそうです」

「なるほど。仕事が早いな」

「ありがとうございます」

調査結果について初めて褒められ、笹井はぴっと背筋を伸ばした。

「その藤ゴルフクラブという場所に、父親の道具があるんだろう。今はロッカーに預けることも多いというからな」

「そうですね。この点は、実際に藤ゴルフクラブに行かないと確定情報にならないかと」

「優先順位は低い。後回しだ」

深瀬はもう一度、部屋の中を見回した。レトロな雰囲気で統一された書斎。本棚にはアウトドアやキャンプ、DIY、資産運用や旅行関連の雑誌などが多く並んでいる。

本は分野別であるだけでなく、色合いや高さまで揃えて丁寧に並べられていた。この部屋の主は相当に几帳面な男だったことが窺える。

「死体はだいぶ硬直している。犯人は、おそらく成人の男、中肉中背。もしくは二人組の可能性か。二人いた場合、女性二人組という線もあり得る。秋吉航季の推定体重は、八十キロはあるだろうからな。睡眠薬を投与された状況を鑑みれば、犯人を自ら招き入れた可能性もある」