最後の家臣を失い、本当のひとりきりとなったわしは、木の実や雑草の他、口にできるものはなんでも食うた。伸び放題の髪とひげ、ぼろぼろのむさ苦しい恰好をして、民の家へ米を乞いに行ったこともあったのう。

誰も、わしが信長だとは思うはずがなかった。屈強だったわしも、いつのまにかさすがに、身体の自由がきかなくなってきたのだったなあ。気づくと、横になって寝ていることが多くなっていた。静かで、思考することさえ、しなくなっていたかもしれん。

目が覚めてみると、真っ暗でなにも見えなかった。視力を失ったのかと思うほど、あたりを、どこを見渡してみても、暗闇だけの世界であることに気づいたのだ。ここは、いったいどこなのだ。世の中は、どうなってしまったのだ。

声を出し、大声で叫んでみても、わしの声以外、なんの音も聞こえない。これが、無間地獄というものなのか……特に苦しみは感じなかった。腹も減らなたかった。ただただ、そこにいた。どれくらいの時間が過ぎたのかさえ、知る由もなかった。

わしはどこにいるのだ。どうすればよいのだ。わしはひょっとして、死んだのだろうか。いや、三途の川を見てはおらん。閻魔や餓鬼とやらにも会ってはおらん。現にこうして、わしの身体はあるではないか。手も足も動くではないか。わしは死んではおらんのだ。それなのに、この暗闇はなんだ。なぜ、光がどこにも見えんのだ。誰か、答えよ。わしにもの申してみよ。

わしはあきらめん。生きることを、絶対にあきらめんぞ。お―、思い出したぞ。民が得意なことをして自ら豊かになり、民が栄えれば、領土も栄える。

無駄な戦(いくさ)がない世を創るのじゃ。誰もが笑って過ごせる世にしたかったんじゃ。無駄な命は、なにひとつない。平和な日ノ本の国を、この目で確かめたかったのだ。ようやくこのことを思い出した信長公は、いつのまにか深い眠りへと落ちていった。

「信長さま、信長さま~」

遠くから微(かす)かに聞こえてくる声を、信長公はキャッチした。それが、結迦(ゆいか)の声だった。

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