その翌週、今度はトンネルのある道の反対側から隣町に入ろうと考えた。朧気な記憶を頼りに祠のあった方角からあの屋敷に辿り着こうと思ったのだ。しかし、あのときに見覚えのある光景だと思ったのがどの辺りなのかがはっきりとしない。

家から不思議なほど遠かったことを漠然と憶えているだけで、それがどこなのかがどうしても思い出せないのだ。取りあえずは、その方角に行ってから畦道のような農道を探し、その道を逆に辿ってコンクリートの私道とあの屋敷と祠を探してみようと考えた。

家を出てすぐの十字路を左に折れて十分ほど歩くと小さな社があって、その脇の急坂を下ると隣町との境になる。その辺りは数日前に歩いた住宅街のずっと南で、同じ山と雑木林に面しているが距離は離れている。

その日は急坂を下ってしばらく歩き、突き当たりを左に折れ、次をまた左に折れて、数日前とは逆の方角から山と雑木林を回り込み、住宅街を真っ直ぐに突き抜ける道を山と雑木林の方角に向かって歩いた。

緩やかに上る道は狭く、継ぎ接ぎだらけの簡易舗装が施されている。道は山に近づくにつれてますます狭くなり、勾配もきつくなる。息を切らせながら歩くと、道は薄暗い雑木林の手前で唐突に途切れた。

そこには白い看板が立っていて、やはり〝私有地、立ち入り禁止〟とある。ボクはまた途方に暮れ、そして、諦めた。

それから何日かは付近を歩いて、祠と木造りの門構えの屋敷と祠に通じる畦道のような農道とコンクリートの私道を探したが、それらしい場所は見当たらない。

どの道を辿っても雑木林の手前で途切れて、そこにはまるで蜘蛛の巣を張り巡らせたように例の看板が待ち構えているのだ。

歩き疲れ、繰り返し現れる立て看板にも嫌気が差したころ、ふと、遠くに東海道線の高架橋が見える場所に出た。辺りは一面の野菜畑で、向こうに見える線路の周りには住宅が立ち並んでいる。

どこか見覚えのある風景に思えたが、ここがどの辺りになるのかがわからない。見渡すと畦道のような農道がずっと先まで続いている。朧気な記憶では農道の先はどこかの農家の私道に繋がっているはずだった。

【前回の記事を読む】時々、ここが本当に元いた世界なのだろうかと考えることがある。狐に化かされたようだと思ったあのときの気持ちがふと蘇る。

 

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