ヨーロッパの空港を閉鎖に追い込んだキャスター泣かせの火山がある国
アイスランドの火山噴火は歴史的にも何度か世界に大きな影響を与えている。1783年から始まったラキ火山(Lakagígar)による噴火は、当時の国内人口の4分の1を死に至らしめたとされるが、その影響はヨーロッパ全体にまで天候不順や異常気象をもたらし、フランス革命の遠因になったとも言われている(1)。
近年では2010年4月に南部のエイヤフィヤトラヨークトル火山が噴火(写真3)し、その噴煙の影響で多くの航空路線が運転停止となり欧州の空路に大混乱を招いた。
折しもアイスランドが欧州にまで影響を与えた金融危機を経験した後だった為、メディアは「cash, not ash」(灰ではなく金を)との見出しで大きく報じた。
この噴火は、地元には大きな被害はもたらさなかったものの、9000m上空にまで達したその噴煙が灰雲を生み、4月15日から21日にかけてヨーロッパ空域及び空港の大部分を閉鎖に至らしめた。
その結果、ヨーロッパから域外への、域外からヨーロッパへの航空便も大規模にキャンセルされ、第二次世界大戦以後の航空運行の混乱としては、最もひどい状況を引き起こしたとされる。
また、この噴火のニュースは世界中を駆け巡ったのだが、この火山の名称、エイヤフィヤトラヨークトルのアイスランド語表記がEyja‑allajökullというもので、発音が非常に難しく、「32万人のアイスランド国民以外は誰も正確に発音できない!」ということでも話題になった。
特にCNN等の欧米ニュース番組では、キャスターやアナウンサーが火山名を正確に発音することが出来ない為、単に「アイスランドの火山が噴火」とか、「アイスランドのE15火山が噴火」と報道していたという。
「E15火山」というのは、「Eの後に15文字アルファベットが続く火山」という略称だったらしい。因みに、「エイヤ」(eyja)はアイスランド語で「島(島々の)」を、「フィヤトラ」(‑alla)は「山(山々の)」を、「ヨークトル」(jökull)は「氷河」を意味する。
また一方では、この噴火とヨーロッパ各地の空港閉鎖騒動に伴い、世界中のマスメディアが「アイスランドってどんな国だ?」といった報道を続けたことが、アイスランドへの観光ブームの文字通り「火付け役」になったことも確かで、2010年当時50万人しかなかった海外からの旅行者数が、2018年には230万人と、5倍近くに増える結果につながった。
尚、最近では2021年3月に首都レイキャビクの南西にあるレイキャネス半島のファグラダルスフィヤル火山とその周辺から溶岩の噴出が始まり、場所を徐々に移しながらも2024年2月現在までその活動が続いている(巻頭カラー写真参照)。
800年振りとも言われる同地での噴火は長期戦の様相を呈しているが、後述するブルーラグーンや地熱発電所にも近いだけに、被害が最小限に止まるよう祈りたい。
【 参考文献 】
(1)“June8,1783:How the "Laki-eruptions" changed History” by Scientic American, David Bressan, June8,2013
【前回の記事を読む】温暖化の影響で国内で初めて氷河という肩書きを失った「オクヨークトル」