第4章(最終章)-オヤジのチャーハン-

「オヤ・・・ジ??」

口元は「オヤジ」と言いたそうに動いていたが、実際には声になっていなかった。しっかりと確認しなければと思い厨房からあわてて出て、その男性の近くに駆け寄り、今度ははっきりと声に出して言った。

「おい、オヤジぃぃ!!!!」

数人の常連の人がいた店内は騒然となった。

常連のひとりがあわてて母親を呼びにいってくれた。長年一緒にいたハズのオヤジの顔に、たかがサングラスをしているだけでまったく気づかないなんて。しかし、よく見ると若干オヤジは痩せていた。頬が少しこけていたために気づけなったのかもしれない。

健康的な痩せ方で、少し浅黒くなっているようにも見えた。転がるように慌てて駆け付けた母親は、オヤジの姿を確認するなり両目から涙を溢れさせた。

何かを言いたそうにしていたが、何から言ったらいいのか分からないという風に戸惑いながら、しばらくの間溢れる涙に身を任せていた。

オヤジは、こちら側の驚きをまったく気にすることなく言い放った。

「おい、うまいじゃねーかよ、このチャーハン、完璧だ!」

オヤジもまた目に涙を浮かべていた。取り乱しそうになるのを必死でこらえた。

「というか・・・どこ行ってたんだよ! 知ってるぞ、旅に出てたんだろ!? 一体どこをほっつき歩いてたんだよ! チャーハンの感想はそのあとだっつーんだよ!」

そう問い詰めた。間髪を入れず母親が早口でまくしたてた。

「旅に行くなら行くで、一言言ってくれればよかったじゃない、どれだけ心配したと思っているのよ! それに・・・ん~もうッ!!」

泣きながら怒っている母親は、続けて何かを言おうとしてこらえている風だった。

「待て・・・な、なんで旅に出てたって知っているんだよ?!」

オヤジは明らかに狼狽している。

突然帰ってきて驚かせてやろうと思ったのに、なぜか自分がびっくりさせられていることが全く想定外で理解できないという風に。可哀想だからネタばらしをしてやった。

「千葉さんに聞いたよ。飲んだ時に旅に出たいって話したらしいじゃん。確信していたわけじゃないけど、なんとなくそうなんだろうなと思ってたんだよ」