しかし、家でのヘルパーさんたちによって一年半で『チーム昭四郎』としての介護基盤をがっちりと確立してくださっているので、何か介護上での食い違いがあってはいけないと、初めのうちは家族がかなり時間をとって病院に居るということにしました。私は監視要員として、毎日病院に詰めることにしました。

(四)いきなりカテーテル鼻腔へ挿入

入院二日目、のどかなドライブ気分で山中病院の病室に到着してみると、夫もこののどかさにつられたのか、うつらうつらとしていました。そのうちにゴロゴロという喘鳴(呼吸音にヒューヒュー、ゼイゼイなどの雑音が混ざること)がしてきました。夫は気付き、目を覚まし、ナースコールを自分で押していました。

いつも家であれば私が吸痰をするのですが、病院の吸痰装置が家でのそれとはかなり違うのです。そして酸素の開放装置も上の方にあるので、背の低い私には届きません。これらの事情を、目覚めた夫もいち早くキャッチして、自分でナースコールを押したのだろうと思います。

ややしばらくして、看護師さんが駆けつけてくださいました。

駆け付けのこの間隔も、家において二秒でチアノーゼ(血液中の酸素濃度が低くなり、皮膚、唇、爪などが青身を帯びた状態のこと)を経験している私にとっ てはヒヤヒヤしましたが、家とは違い、何人もの患者さんを看護師さん数人で担当しておられるのですから、命にかかわることがない限りは・・・と腹を括ってお待ちしておりました。

現れた看護師さんは、さすがプロ。ゆったりと気管とその周辺から吸痰を始めました。吸う音が途切れたので終わったのかと思い夫を見ますと、いつもおとなしい夫にしては初めての、ものすごい形相で、目を剥いて看護師さんを睨んでいます。どうも怒っている様子なのです。

そしてその原因がわかりました。カテーテルが鼻の中に挿入されていたのです。

「止めて下さい。夫は鼻からは採りません」あわててしまい私は病室であることも忘れて、大声で叫んでいました。でも、私以上に夫本人がいちばんびっくりしてしまったのではないかと思いました。 あまり動かなくなってしまった身体を使って、精一杯の抗議をしている夫を見て、少しいじらしくなってしまいました。