「身代守(しんだいもり)」

寺の授与所に駆け込むとすぐさま、お守りを探した。種類が多くあり、どれを買えばいいかが分からない。選んでいる時間が無いので、仕方なく授与所にいた老人に尋ねる事にした。

「お守りを探しているのだが、良い物はないだろうか」

清三郎の鬼気迫る様子に、何か勘違いをしたらしい老人は深く頷いた後、酷く気の毒そうな顔をして、涙ぐみながら一つのお守りを差し出した。

「身代守(しんだいまもり)です。中に木札が入っていて梵字が刻まれております。様々な厄を身代わりに引き受けてくれますよ。きっと貴方様の力になってくれるはずです」

初穂料を払い、お守りを受け取ると清三郎は参拝もせず、また走り出した。急いで茶店に戻ると早苗はまだ店にいた。丁度、お六が柏餅を買って戻って来た所だったようだ。源次郎が嬉々として受け取り、礼を述べている。新之丞への土産はしっかり調達できたようだ。

「早苗殿、これを」

清三郎は不安げにこちらを見ていた早苗に駆け寄り、身代守を差し出した。早苗は驚きつつも差し出された身代守を受け取った。お守りだと分かったのだろう。大事そうに両手で包んでくれた。

「様々な厄を代わりに引き受けてくれる身代守だそうです。早苗殿の門出に相応しいと思いました。災難は皆、この守り札が引き受けて下さいましょう」

早苗に災難など一つも降りかからず、幸せになって欲しい。心からそう思った。