母は一家の太陽であった。明るく朗らかな人で、少々後ろ向きに考えすぎる父をそっと励ますような人であった。父も母がいれば穏やかであった。流行り病にかかり、日に日に弱っていく母を見るのが辛かった。ついに母がこと切れた時、父は顔を歪めながら涙を堪え、源次郎と清三郎は声を上げて泣いた。そのとき、新之丞はやはり泣いていただろうか、清三郎は思い出せなかった。長兄の様子を気遣う余裕など幼かった清三郎には無かった…
[連載]身代守
-
小説『身代守』【第8回】筒藤 純
母が亡くなった時、兄は泣きわめく私たちの手を強く握ってくれた。兄の愛情は今も変わらないのに、私たちは勝手に兄を妬んで…
-
小説『身代守』【第7回】筒藤 純
腰を落とした香取神道流の構えの兄と正眼の構えの兄二人による立ち合いは決着が着かず…
-
小説『身代守』【第6回】筒藤 純
優秀な分家より本家の息子を跡取りにする為に正助は武家の兄弟を頼る。しかし兄弟は押し黙ってしまう。
-
小説『身代守』【第5回】筒藤 純
「これはいよいよ、腹を括らねばなるまいか」商人になるのか、武家に残るのか、将来の決断を迫られ途方に暮れる兄弟だが…
-
小説『身代守』【第4回】筒藤 純
どうしようもなく、届かない思い。子供たちにとって、歳の差、立場の違いは超えることの出来ない壁であった
-
小説『身代守』【第3回】筒藤 純
源次郎のために見事な着物を着たお幸だったが、源次郎は別の女性に夢中でそちらの着物を先に褒めてしまう...
-
小説『身代守』【第2回】筒藤 純
叔父を"へつらう会"となった先代の法事 従兄弟たちはこっそりと抜けだして、屋敷へ足を運ぶ
-
小説『身代守』【新連載】筒藤 純
「まるで、茶番ではないか」華やかな先代当主の三回忌に、日々倹約する清三郎はつぶやいた