「そうそう、その美談をもとにした映画があったね。題名は、いまちょっと思い出せないけど……観たことない?」

「いいえ、ないです。わたしはこれまで、映画は一本しか観たことないんです。村の公民館で。中世の物語でした」

「その映画、けっこう評判がよくてあたしも観たけど、でも、スビックの人があれを観たら、気を悪くするんじゃないかと思ったね。表面上はスビックの人たちを讃(たた)えているように見せかけて、じつは見下してるようなところがあるんだよ。

スビックの人たちが外国から支援を受けて、いろいろ学んで、独立しようと努力していることを茶化すような、意地の悪い場面がいくつも出てきてね。結局、スビックは独立なんて生意気なこと言わないで、時代遅れの美学を信じたまま滅びて、フルグナに併合されればいいって、そういうふうにも受け取れる映画だったの。

映画には、集井中将をモデルにした人が出てくるんだけど、その人、スビックを勝たせようって気が、まるでないの。どうせ勝てる相手じゃないんだから、立派に戦ったら、あとはフルグナに従えばいいって、考えてるように見えるんだよ。集井中将がそういう人だからね。

でも、戦争に負けたあと、スビックの人たちがどれほどひどい目にあったか……。集井中将は、そういう現実から目を背けるというより、そこまで頭がまわらない人なんだよ」

わたしは、『告壇』がそのことを美談として書いたということが、引っかかった。

「……集井中将は、マスコミや映画の人たちと親しいんですか?」

「マスコミの人なんかには、やたらと受けがいいよ。すごくおしゃべりだから。海軍の人事とか艦(ふね)のこととか、機密に関わるようなことでも、わりとペラペラしゃべるからね。マスコミにもてはやされることを、よろこぶような人なんだよ。自分が大物になったように感じるんだろうね。それで、マスコミが誉めてくれるような「いい人」になろうとしてる。どういう人か、だいたいわかるでしょ」

わたしは頷いた。

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次回更新は9月28日(土)、11時の予定です。

 

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