第五章 心の底

「集井中将はどんどん出世してるけど、でもさぁ、軍人ってのは、戦争に勝つことが使命だろ。負けても滅びても、立派に戦えばそれでいいなんて、軍人が言うことじゃないよ。

集井中将の戦争観は、昔、雉斉人同士が刀や弓で合戦やってた頃のまんまなんだよ。戦争の結果に国の命運や国民の人生がかかってるってことが、全然わかってなくて、武人として立派に戦えば、それでじゅうぶんだと思ってるんだよ」

黛さんは、少し言葉を切ってから言った。

「集井中将は将来、海軍の司令長官になるんじゃないかって言ってる人もいるけど、そんな事態を想像したら、あたしはぞっとするね」

それは冗談ではなく、真剣だった。

大通りはたいへんな人だかりだった。たくさんの屋台が並び、特設のステージからは、にぎやかな音楽が流れていた。

今日、二月二十日は戦勝記念日だった。

わたしは敬明と二人で大通りをぶらぶら歩き、屋台でぜんざいを食べ、パレードを見たあとは、木立にたたずんで、ステージで演奏される音楽を聴いていた。

ステージは、前に錦秋県の人たちが演説していた場所だった。

あのあとすぐ、錦秋県へ軍が派遣された。軍はそのまま駐留し、ひとまず落ち着いていた。

でも、フルグナはこれから本格的に攻撃してくるという噂もあって、問題が解決したわけではないらしい。

わたしはふと、来年のこの日も、こうやって楽しくにぎやかに過ごせるだろうか、と不安になった。