第五章 心の底

客間に茶菓を出して台所に戻ると、仕事を終えた黛さんが椅子に座って、自分で淹(い)れたお茶を飲んでいた。

わたしはさりげなく、黛さんに話しかけた。

「わたし、中将なんていう人をはじめて間近で見ましたけど、あまり偉そうには見えない方ですね」

「無能な軍人の見本みたいな人だよ」

黛さんがあまりにもはっきり言ったので、わたしは少し笑った。

「でも、出世できたんですね」

「奥様と結婚したからだよ。それも誰かの入れ知恵だったらしいけどね。それに、失敗をごまかすのがうまいんだよ。ああいう人が出世するんだねぇ。いやな世の中だよ」

「……奥様って、ここの奥様のことですか?」

「そう。集井中将は、貴子様の元夫だったの」

「そうだったんですか……いつ離婚されたんですか?」

「正式に離婚されたのは二年前。それ以前から、ずっと別居されてたけどね」

「でも、いまでもおつき合いがあるんですね」