わたしは敬明に話しかけた。

「フルグナとまた戦争になるかもしれないっていう噂があるけど、ほんとうにそうなるの?」

敬明は憂鬱な口調で言った。

「フルグナはこれまで国内で揉めてたけど、それも片がついて、負けた側の人間はみんな殺されるか、強制収容所に入れられた。だから後腐れもなく、すぐにまとまれるんだ。いまは、雉斉との戦争の準備を着々と進めてる」

「外交では解決しないの?」

敬明はあっさり言った。

「しないよ。フルグナは戦争をしたがってるんだから。もう堂々と、雉斉を占領するって宣言してるよ。戦争を防ぐ手立てがあるとすれば、フルグナに、『いま雉斉と戦争しても勝てない』と思わせることだな」

わたしは、はーっと息をついた。

「それって、先送りするだけだよね」

「俺だって戦場には行きたくないよ。でも敵が攻めてきたら、もう覚悟を決めて戦うしかないだろう」

なんだか気が滅入ってきた。わたしは気分を変えるために、話題を変えた。

「海軍の集井卓中将って、どういう人なの? 女中の黛さんは、無能な軍人の見本だって、きついこと言ってたけど」

「……無能だったら、まだ救いはあるけどな」

「どういうこと?」

「十年前に、集井中将がスビックに軍事顧問として派遣された話は聞いた?」

「うん。でもそこで、集井中将がヘマをして、スビックの艦隊は全滅したとか」

「集井中将がほんとうに無能だからそういう結果になったのなら、それは仕方ないんだよ。だけどさ、スビックが負けてよろこぶ国って、どこだと思う?」

わたしは寒気がした。まさか集井中将は、フルグナと通じていたとでもいうのだろうか。

「真実はわからないけどな。八年前の戦争でも、海軍の補給の輸送がうまくいかなくて、陸軍はひどい目にあったんだけど、その作戦を立てたのも、集井中将なんだよ」