鉄鋳物は自分で始めた事業でしょう! 尻はしっかり自分で拭って下さいよ!と叫びたかった。
しかし、それでは地雷を踏むことになる。そうなると社員も家族も不幸なことになる。自分の感情でそんな事態を引き起こしてはいけない、と松葉はグッと思い留まった。
また、人を当てにするなとは社長を当てにするなということ、即ち金は出せないということだと、松葉には容易に理解できた。社長の理解が得られない限り、投資はできない。松葉は、鋳造設備の増設を諦めた。
そして、今の受注している物件の製造と、これから受注する予定の物件をどう消化していけばよいか大いに悩んだ。
工場長を呼んで、設備の増設は社長に相談した結果、見送ることになった、とだけ伝えた。工場長は、どうしてですか、と怪訝そうな顔をする。
松葉は返事に窮したが、「時期尚早ということになった」と、だけ応えた。
「どうしますか。今の残業だけでは、受注分を消化するだけで精一杯ですよ。3か月先には、大きな物件があるようなことを営業課長が言っていましたが」
工場長は、心配そうに松葉を見上げて言った。
「ああ、あの物件な、大きな物件は注文書を手にしてみないと分からないけどな。客先に俺も挨拶に行ってみたが、確かに受注の確率は高いな。取り敢えず、ここは今受注の物件の消化に全力を上げよう」と、松葉は応えて、もう少し具体的に、細かく工程の検討をするように言った。
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本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。