第三章 隣る人
どんぐり 愛と平和の縄文時代
散歩をしながら大好きな縄文時代のことを考えていました。縄文時代の遺跡には戦いの痕跡が見当たらないので、「愛と平和の時代」と言われています。
狩猟や採集によって食物を確保していた縄文時代は、人々が自然に感謝し、食料を分け合うことを基本としていました。縄文時代の主食は保存されたどんぐりなどの堅果類だったいうことです。
愛と平和の縄文人ですが、二〇一二年の東京大学らの核ゲノム研究では、縄文人との遺伝要素は、アイヌ、琉球、本土日本人の順に強いことが明らかにされました。縄文時代好きな私としては、この新聞記事を「ふ〜ん、なるほど〜」と感心しながら見たことをよく覚えています。
アイヌと言えば北海道ですが、私は二〇一三年に開催された日本PTA全国研究大会みえ第6分科会で基調講演を行ったご縁で、その後三回ほど北海道のPTA関連の講演に呼んでもらったことがあります。講演の冒頭には、北海道の名付け親である三重県出身の松浦武四郎とアイヌの文化についてお話をしました。
アイヌには、神さまが語る昔話(カムイユカラ)があります。私が講演の冒頭でお話しした昔話を紹介します。
「むかしむかし獲物が捕れなくなってアイヌが困っていると、フクロウの神さまが見かねて、その理由を探ってくれました。シカやサケの神さまは、アイヌが獲物を捕ったときに、無駄にしたり粗末にしなければ、再び獲物を送り届けてあげようと言います。
フクロウの神さまにこれを聞いたアイヌは、捕った獲物を大切に無駄なく扱い、神さまへの感謝を忘れないようにしました。すると、シカやサケが帰ってきました。その後、アイヌは幸せに暮らしました」というお話です。
自然の恵みは神々からの授かり物で、互いに敬い、助け合い、感謝し、自然と共に生きることの大切さが伝わってきますね。
アイヌの人たちが、「愛と平和の時代」を生きた縄文人と遺伝要素が近いことが、何だか頷ける気がします。松浦武四郎が北海道を歩き、アイヌの人たちから聞いた地名を記した地図が松浦武四郎記念館にあります。北海道の市町村名の約八割がアイヌ語に由来しているとか。