第一章 目に見えないもの
やさしい雨
みなさんは雨がお好きですか? 私は雨が好きです。
小学四年生の雨の日の学校で、上靴に履き替えて見上げた階段の吹き抜けの薄暗い空気感の印象が強く心に残っています。何だか少し重たいのだけれど、体を優しく包み込むような湿気を含んだ空気を心地よく感じたのです。
雨というのは私たち全体を覆い尽くす優しさがあるような気がしたのかもしれません。要約法華経の薬草喩品第五に「雨は、小さな根、小さな茎、小さな葉、小さな枝を潤し、また中位のもの、大きなものすべてのものを潤す。樹木は等しく、大小それぞれの種によって受け、種に応じて生長する。雨を受けた場所により、草木の種類によって差別されることはない」という件があります。
雨はすべてのものを潤すのですね。親の子どもへの愛情も雨のようであればと思うことがあります。子どもが成長するために、子どもの心を潤すような愛情を注ぐことができたら、どんなに素晴らしいかと思います。そんな雨にはさまざまな種類があります。
日本語には雨を表す呼び名が四〇〇以上あるようですし、しとしと、ぽつぽつ、ぱらぱら、ざあざあなどのオノマトペもあります。私たち日本人が豊かに表現するその雨は日常生活に深く関わり、私たちを一喜一憂させたりすることもあります。
例えば、日照りが続けば雨を渇望し、一方で大雨が続けば洪水を恐れたりもするのです。何だか親子の愛情にも通じるようなお話ですね。
そんなことを考えながら散歩する雨の日も楽しいものです。誰も見ていないことを確認してから、水たまりにジャンプして入ってみたり、傘もささずに濡れてみたり、雨の日だからこそ楽しめることを堪能していたりします。雨の日には雨を楽しみ、曇りの日には曇りを楽しみ、晴れの日には晴れを楽しむ。それぞれにはそれぞれの楽しみ方があるような気がします。
ぜひ、みなさんも雨の日を楽しんでみてください。