「昨日うちの常連さんたちと3人で『明来』に行ってきたよ。2人とも美味しいってバクバク食べてたよ、さすがホンモノは違うなぁ」
そういってオヤジはなんだか嬉しそうに『明来』をほめちぎった。
「おれがこっちで営業している時にそっちに行ってたのかよ」と呆れた素振りをしながら笑って言った。
「で、オヤジは何食べたんだよ」
「オムライスだ」
「随分カワイイの食べたじゃん」
「だっておまえ、ホテルといえばオムライスだろ」
「なんだよ、その固定観念は」
「しかし、彼はホントいい腕してるな。卵、チキンライス、ソース全てに愛を感じるんだよ。元ホテルのシェフってなんとなく無機質な感じだと思ってたけどな。今度はハンバーグ食べてみるかな」
「何食べてもウマイよ。宮下さんはホテルに居たころから一目置かれていたし、ほかのホテルからも声が掛かってたみたいだしね」
「そうなのか、じゃあおまえが声かけてなかったら別のホテルで雇われていたかもしれないってことか」
「いやそれはないって言ってたよ。やっぱり独立したい気持ちがずっとあったから、その話は断ってたんだって」
「そうか、そっちの方が稼げるだろうにな。でもカッコイイ選択をしたな」
「ちょっと責任感じたけどね、おれが声掛けて良かったのかなって」
「まぁこういうのは出会いだし、運命みたないもんだからな。彼、厨房でいい顔して調理してたぞ、あれはな・・・『ようやく好きなことで自分の力を試せて楽しい』って顔だな」
長いこと厨房に立ち続けてきたオヤジのこの観察眼はおそらく信頼できるものなのだろう。ひとまず、(彼に声をかけたことは)間違っていなかったという風に思うことにした。