第3章 -不安は希望-
うちの店のはす向かいに新しい洋食屋「ビストロ明来(めいらい)」がオープンすると、PR効果もあり、予想を優に超えるお客さんが来店した。にわかに商店街は活気づき、もれなくこちらもおこぼれに与ることが出来た。会社を辞めて店に全力を注ぐようになっていた頃だ。それに合わせていくつかの新メニューも開発していた。順調だ。
「開進亭」、そして「ビストロ明来」。
オヤジはすこぶる単純な男だ。
「おれの店の名前は『開進亭』だ、『開いて』『進む』」
単純だが、熱い男でもあった。ひたすらに自分の道を邁進する、そんな思いを込めた店名なのだ。そしてオヤジが単純なら、オレも単純だ。「新しい店の名前を考えてくれ」と言われ本当にいろいろ悩み考えたが、一周回って結局単純な「自分」が顔を出した。
「『明るい』『未来』・・・『明来』っていいんじゃないか(ちょっと中華っぽい雰囲気だから前にビストロをつけよう)、名は体を表すって言うし。元ホテルシェフの彼の腕は確かなものだ、心機一転独立して自分の店を始めても、きっとそこには明るい未来しかないのは間違いない!」
一つの商店街にほぼ向かい合う形で『開進亭』と『ビストロ明来』なんていう途轍もなく前向きな名前の店があったら、お客さんもたくさん来るに違いない(この辺の楽観的な予想も単純さ故だろう)。
「新しい商店街の名前を考えてくれないか」と商店会から依頼があったらどうしようかと勝手な妄想もしていたくらいだ。血は争えないなと思い、笑いがこみ上げてきた。