第三章

円形の石造の塔、オブライアン塔って言うらしい。

中には見学用の通路があって、人がたくさん歩いていたわ。テツロウ君はわざとぶつかるふりをして私を驚かすと、スルッとその人の体をすり抜けたのよ。

私達は塔の中でちょっと笑いあった。

初めてとても素敵な気持ちが私に湧いたのよ。

「相変わらず人間は気付かないね」

「ええ? でも仕方ないことでしょう?」

私が答えると、「向こうからも見えない!」って大きな声で笑って見せるの。

テツロウ君はくねくねと変な体の動かし方をして、私を笑わせる。私が笑うと、テツロウ君もまた笑うの。

なんかとてもおかしくなっちゃって。塔の中で二人の声が響いたわ。テツロウ君は、「いっしょにクジラに帰ろうよ」って言ってくれた。

手を繋いでくれたテツロウ君はこんな事を話してた。

「ここに来れば人間の喜びのようなものを感じられる、そういう場所に行きたいと言ったんだ。だから、断崖の上の緑を散歩してた。景色が流れて動くのを見て、それが感じられるかと思っていたけど、そうでもなかった。きれいな景色なんかじゃ、なにも僕は感じなかったよ。だけど、君にここで出会うなんてことは、嬉しい喜びみたいなものだと思う」

そしてクジラに帰って、私の部屋に戻る時、テツロウ君はこう言ってくれたのよ。

「明日もまた会いたい。いっしょに出掛けてくれない?」

「クジラに言えばいいのかしら……」

そしたらテツロウ君は大きな声を出して叫んだわ。

「僕は日向子さんとまた一緒に出掛ける! いいよねー、クジラ!」

また、私を笑わせた。

そうしたら嬉しいことにテツロウ君の家が目の前に現われたのよ。