第三章
その後、たくさんの旅にクジラは連れて行ってくれた。私はそのうちにいろんな事を知るのよ。
その中の一つ、私にとってとても大切な事も。
私は自分があの時、病院で死んでしまったのだと。
やがて理解したわ。おばあちゃんは泣いていた。談話室には深い悲しみの空気が流れた。
藤井奈々子さんは、これ以上は話さなかった。
静かにおばあちゃんを見守っている。だけど、私も聞いていて涙があふれていたから、藤井奈々子さんはハンカチを渡してくれた。
私はそれで顔を拭うと、おばあちゃんの手をもう一回握った。お母さんはおばあちゃんに寄り添い、しばらくして私に言った。
「今日はもうこの辺で」
藤井奈々子さんは静かに腰を上げる。おばあちゃんは私とお母さんでお部屋まで連れて行ってあげるのだ。
おばあちゃんの腰に手をかけてあげたとき、応接室の花瓶に入っている花の花びらが、おばあちゃんの悲しみを察したように一枚机の上に落ちた。
花びらが落ちる時、ヒラヒラとゆっくり落ちていくと思っていたけど、現実は違う。
音も無く、前触れもなく、ぽとりと重力のままに瞬間的に落下するんだ。
ほかの花びらたちとさっきまで一緒になって咲いていたのに、数十センチも下の命無き場所に、無情にも。
私はそれを拾って、透明のお皿の上に置いた。
だけど、それはもっと花びらたちの場所から遠ざけてしまったのだと思い、おばあちゃんがベッドで眠った後も私の涙は静まらなかった。
私は少し大きくなった。
世界にはいろいろな場所があって、その中にはとても美しい場所もたくさん。
クジラが私を運んでくれた。
「ねえ、私はいずれ天国に行くの?」